広告費と一口に言っても、その意味するところは場合によって異なることがあります。クライアントが思っている広告費と、広告代理店が思っている広告費では、費用の範囲が異なることがあるのです。こうした認識の齟齬がしばしば信頼関係を崩してしまうこともありますから、広告費の定義や用語についてしっかり理解しておく必要があります。特に、広告業界の用語のなかでもよく用いられる「グロス」「ネット」、それに「マージン」の違いは、誤解ないように覚えておきましょう。
グロス/ネット/マージン業界で使われる用語について
「グロス」とは、広告で発生する費用の合計です。もともと「総計」や「総量」などという意味を持つ英語の「gross」に由来しますが、ネット広告では「グロス建て」などというように、広告費の合計を意味する場合によく使われます。
「ネット」とは、ネット広告においては広告費の原価を意味します。こちらももともと英語の「net(正味、純量)」に由来する言葉ですが、ネット広告で広告費を指して「ネット」という時はその原価と理解しておくとよいでしょう。「グロス建て」と同じように、「ネット建て」という言い方もよくされます。
広告主としては、広告費という時は費用の合計、すなわち「グロス」と認識してしまいたくなりますが、広告代理店が広告費という時は「ネット」のことが多いです。ちなみに、世界的な基準においては、売上を指す場合は「ネット」であることが多いです。IFRSもそれを推奨しています。いずれの場合であれ、双方の誤解がないように事前にしっかり確認しておきましょう。
もう一つ、「マージン」という言葉も広告業界ではよく使われます。これはもともと「利ざや」などという意味ですが、広告業界ではグロスからネットを引いた残り、すなわち、広告代理店が手にする手数料と思ってよいでしょう。広告代理店からもらう請求書を見てみてください。手数料についての何らかの項目があるはずです。一般的にはネット(原価)のみを考えるのが支払いに関する場合ですが、広告業界ではネットとマージンを合わせたグロスで考えることが大切になります。
どのような場面で使われるのか?
上記の説明のとおり、ネットが原価、マージンが手数料、グロスがその合計と考えるとわかりやすいでしょう。ネット広告に限らず、さまざまなケースでも同じような意味で使われます。たとえば、商品原価のネットに対し、実際に販売する際の定価をグロスという具合です。この時、オークションなどで出品者が介在するようなケースでは、それに支払う手数料をマージンと呼びます。
ネット建てが取引として増えている理由
広告業界においては、従来はグロス建てで取引することが多かったです。ところが、グローバル化の影響と、国境を超えたネットビジネスの普及によって、最近ではネット建ての取引がかなり増えています。
ネット建ての場合、広告枠を持つメディアは広告費の原価だけに関与します。広告代理店へのマージン、ならびに、広告主に対する請求合計額(グロス)とはかかわらないということです。それゆえ、マージンは広告主と広告代理店によって自由に決められるというメリットがあります。このメリットと併せて、もともとネット建てが世界的な取引のスタンダードでしたから、日本もそれに倣ってネット建てを選ぶところが増えたきたと考えてよいでしょう。
広告業界のグロス、ネットの気を付けるポイント
広告業界においてグロスとネットで注意しなければならないのは、広告費を支払う側と受け取る側の認識の違いです。
広告主としては、広告出稿にかかるすべての費用を考えてしまいがちなので、広告代理店と話す時も「広告費」といえば、もろもろの金額の合計、すなわち「グロス」と捉えてしまいやすいでしょう。ところが、広告代理店は、ネットを広告主が出せる予算上限と認識し、請求する際にはそれにマージンを合わせたグロスの金額になることがあります。
そうなると、広告主にとっては、想定していたよりも思いのほか高額な金額を請求されて困ってしまうということもあるでしょう。たとえば、100万円を予算の上限と考えてそのつもりで広告代理店に伝えたのに、代理店はそれをネットと捉え、その20%、20万円を自社が受け取るマージンと考えるということがあります。その結果、合計請求金額は100万円+20万円=120万円となってしまい、予算を20万円もオーバーしてしまう結果です。
これだけ費用の違いが出ると、双方の認識の違いというだけには留まらず、大きなトラブルに発展してしまうこともあり得なくはないでしょう。そういうことのないように、広告費について話す場合は、最初の段階でグロスなのか、それともネットなのかをしっかり確認しておくようにしてください。
まとめ
広告費といっても、グロス建てなのかネット建てなのかによって広告主が負担する費用には大きな差が生まれます。広告主と広告代理店との認識の違いがトラブルを生むことのないように、グロス、ネット、マージンといった用語についてはきちんと理解しておきましょう。